「先生の指示、どう受け取ってる?」指示理解・実行に時間がかかる生徒への具体的な授業中サポート
授業の指示、生徒にはどう届いているでしょうか
授業中に生徒に指示を出しても、「あれ、今何をする時間だっけ?」「みんなと違うことをしているみたい…」と感じている様子の生徒はいませんか。指示を聞き直す、行動に移すのに時間がかかる、あるいは独特な方法で課題に取り組む生徒がいることは、決して珍しいことではありません。特に、学級に多様な学習スタイルを持つ生徒がいる場合、一律の指示だけでは全員に適切に伝わらない難しさを感じることがあるかもしれません。
こうした状況は、教員、特に経験の浅い教員にとって「どうしたらいいのだろう」「自分の指示の出し方が悪いのかな」といった悩みに繋がりやすいものです。しかし、これは指示の受け取り方や情報の処理方法が、生徒一人ひとりによって異なるために起こりうることです。
この記事では、指示の理解や実行に時間がかかったり、独特な方法をとったりする生徒への具体的な授業中サポートについて、現場で実践できるアイデアや事例をご紹介します。
指示理解・実行に課題がある生徒に見られるサイン
指示の受け取り方や実行に特性のある生徒は、授業中に様々なサインを示すことがあります。以下のような様子が見られたら、指示の入り方に課題がある可能性も考えられます。
- 指示を聞き逃す、あるいは何度も聞き直す
- 指示が出てもすぐに行動に移せず、周りの様子を伺っている
- 指示された内容の一部だけを捉え、全体像が分かっていない
- 見当違いの作業を始めてしまう
- 指示された手順とは異なる、独自のやり方で進めようとする
- 課題に取り組んでいる途中で、次に何をしたら良いか分からず手が止まる
- 指示が一度に多すぎると混乱してしまう
これらのサインの背景には、聴覚情報や視覚情報の処理の違い、ワーキングメモリの容量、注意の向け方の特性など、様々な要因が考えられます。大切なのは、「指示を聞いていない」と捉えるのではなく、「指示の受け取り方や処理の仕方が異なるのかもしれない」という視点を持つことです。
授業で試せる具体的なサポート事例・アイデア
指示理解・実行に課題のある生徒へのサポートは、日々の授業におけるちょっとした工夫の積み重ねから始まります。以下に、すぐに試せる具体的なアイデアをご紹介します。
1. 指示の出し方の工夫
- 視覚情報の活用:
- 口頭指示だけでなく、板書やスライドに指示内容を簡潔に書く。「〇ページ」「〇番」など、具体的な場所や番号を明確にする。
- 配布資料に直接、重要な指示やステップを書き込むスペースを設ける、あるいは教員がポイントを指差す。
- ジェスチャーや身振り手振りを使って、行動を具体的に示す。
- 聴覚情報の工夫:
- ゆっくり、はっきりと話す。早口にならないように意識する。
- 指示は短く、一度に一つか二つに絞る。複雑な指示は分割して出す。
- 指示の前に「これから大切な指示を言います」のように注意を促す言葉を入れる。
- 指示の重要なポイントを繰り返して伝える。
- 複数のモダリティを活用:
- 「耳で聞いて、目で見る」だけでなく、可能であれば「実際に触る」「やってみる」など、複数の感覚を通して指示を伝える。例えば、「このプリントの、一番上の行を指差してみて」のように、行動を促す。
- 具体的な言葉を選ぶ:
- 抽象的な表現を避け、「考えよう」「まとめよう」ではなく、「〇〇について、教科書の〇ページを見ながら、ノートに3つ書き出そう」のように、具体的な行動を示す動詞を使う。
- 指示後に待つ時間を作る:
- 指示を出した後、生徒が指示を処理し、行動に移すまでの数秒間、意図的に待つ時間を作る。すぐに次の指示を出したり、急かしたりしないように心がける。
2. 指示実行中のフォロー
- 開始時の個別確認:
- 指示を出した後、指示理解に時間がかかりそうな生徒の近くに行き、「〇〇さん、今、何から始めるところだったかな?」などと優しく声をかけ、最初のステップが理解できているか確認する。
- 「このプリントだね」「〇ページを開くんだね」と、具体的な対象を指差し確認する。
- 巡回時の声かけ:
- 生徒が課題に取り組んでいる間に教室を巡回し、つまずいていそうな生徒に声をかける。「ここまでできたね。次は、これをやってみようか」「ここがちょっと違うみたいだよ。もう一度見てみよう」など、具体的かつ前向きな声かけを心がける。
- ミニゴールの設定:
- 長い課題の場合、「まずはここまでの1問だけやってみよう」「最初の段落だけ読もう」のように、小さな達成目標を設定し、そこまでできたら確認する。
- 見本やテンプレートの提示:
- ノートの書き方や課題の形式など、具体的な完成イメージを示す見本を提示する。テンプレートを用意しておき、それに沿って書き込めるようにするのも有効です。
- 困っているサインを見つける:
- 手が止まっている、キョロキョロしている、落ち着きがない、消しゴムを使いすぎるなど、生徒が困っているサインに気づく。異変に気づいたら、すぐに声をかける。
3. 環境設定の工夫
- 座席位置の配慮:
- 指示が聞き取りやすいように前に近い席にする、周囲の刺激が少ない壁際の席にするなど、生徒の特性に合わせて座席を検討する。
- 指示掲示の定位置化:
- 今日のスケジュールや重要な指示など、確認が必要な情報は掲示物として決まった場所に貼っておく。生徒がいつでも見返せるようにする。
教員側の心構え
指示理解・実行のサポートは、すぐに劇的な変化が見られるとは限りません。大切なのは、生徒の「できない」を見るのではなく、「どうすればこの生徒に伝わりやすいか、行動に移しやすいか」という視点で、様々な方法を試してみることです。
- 「指示が入らない」のではなく、「指示の受け取り方が違う」と捉えることで、指導方法の工夫に意識を向けやすくなります。
- 一度試してうまくいかなくても落ち込まないでください。生徒によって効果的な方法は異なります。多様なアイデアの中から、その生徒に合うものを見つけていく過程だと考えましょう。
- 生徒が少しでも指示を理解し、行動に移せたことを具体的に褒め、認めることで、生徒自身の自信に繋がります。
- 一人で抱え込まず、学年の先生や特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラーなど、他の教員や専門家と情報を共有し、相談しながら進めることが大切です。
まとめ
授業中の指示理解・実行に課題のある生徒へのサポートは、教員にとってやりがいと同時に難しさを感じる場面かもしれません。しかし、生徒一人ひとりの特性を理解し、指示の出し方や声かけ、環境設定といった小さな工夫を重ねることで、生徒の「分かった」「できた」を増やすことができます。
この記事で紹介したアイデアは、あくまでも一例です。ぜひ、ご自身のクラスの生徒の様子を観察し、様々な方法を試してみてください。そして、もし行き詰まったら、一人で悩まず、この「学びのカタチ共有広場」で他の先生方と経験を共有し、新しいアイデアを見つけていきましょう。互いに学び合い、多様な子どもたちの成長を支えていきましょう。