先生の話が聞き取れない生徒に寄り添う:授業中の「聴く」を助ける具体的なサポートアイデア
授業中の「聞き取りにくさ」に寄り添うサポートアイデア
授業中に生徒の様子を見ていると、「あれ、今の指示、伝わってないかな」「何度も聞き返しているな」「どうも話が頭に入ってこないみたいだ」と感じることがあるかもしれません。こうした「聞き取りにくさ」は、単に集中力がないわけではなく、多様な学習スタイルのひとつとして、聴覚からの情報処理に難しさを抱えている場合があります。
特に、発達特性などにより、音として入ってくる情報を整理したり、重要な部分とそうでない部分を区別したりすることに時間やエネルギーが必要な生徒もいます。このような生徒が授業中に安心して「聴く」ために、教員ができる具体的なサポートにはどのようなものがあるでしょうか。ここでは、すぐに授業で試せるいくつかのアイデアをご紹介します。
聴覚情報処理の苦手さとは?授業中のサイン
聴覚情報処理の苦手さは、耳の聞こえに問題がなくても、脳が音の情報を処理する過程で困難を抱える状態を指すことがあります。これは医学的な診断とは異なりますが、教育現場で生徒が直面する困りごととして理解しておくことが大切です。
授業中のサインとしては、以下のようなものが見られることがあります。
- 先生の話を頻繁に聞き返す、または聞き流してしまう
- 複数の指示を一度に聞くと混乱してしまう
- 周囲の騒音に気を取られやすい
- 話のスピードについていくのが難しい
- 口頭での説明だけでは理解が進まない
- 板書や視覚情報がないと話の内容が頭に入ってこない
- メモを取るのが苦手、または話を聞くのに必死でメモが取れない
これらのサインが見られたとしても、生徒の「やる気がない」と捉えるのではなく、「音からの情報を処理することにエネルギーを使っているのかもしれない」「サポートが必要なサインかもしれない」と考えてみることが支援の第一歩となります。
授業中にすぐに試せる具体的なサポート
では、こうした生徒に対して、私たちはどのようなサポートができるでしょうか。声かけや環境、教材など、いくつかの側面から具体的なアイデアをご紹介します。
1. 声かけ・話し方の工夫
私たちの普段の話し方を少し意識するだけで、生徒の聞き取りやすさは大きく変わります。
- ゆっくり、はっきりと話す: 特に指示や重要な説明をする際は、普段より少しゆっくりとしたスピードで、言葉を区切るように話します。
- 指示は短く、一つずつ: 複数の指示を出す際は、「まずこれをして、次にこれ」のように、一つずつ区切って伝えます。可能であれば、一度に与える指示は少なくします。
- 重要なポイントを強調する: 大切なキーワードや手順は、少し大きな声で言ったり、繰り返したり、「ここが大事なポイントだよ」と前置きしたりします。
- 視覚的な合図と併用する: 話しながら、指差しやジェスチャーを使ったり、板書やスライドを指し示したりすることで、聴覚情報に視覚情報を加えます。
- 理解を確認する問いかけ: 「〜ということかな?」「今言ったことは、〜ということだけど合ってる?」のように、生徒に復唱させたり、内容を自分の言葉で言ってもらったりすることで、理解度を確認します。「分かった?」という抽象的な問いかけより、具体的な内容の確認が有効です。
- 言い換えや別の表現を使う: 一度で伝わらなかった場合、同じことを別の簡単な言葉で言い換えてみたり、例え話を使ってみたりします。
2. 教室環境の工夫
物理的な環境も、生徒の聞き取りに影響を与えることがあります。できる範囲で調整を検討してみましょう。
- 座席の配慮:
- 先生の近くの席は、声が届きやすく、口元も見やすいため有効な場合があります。
- 窓際や通路側など、外部からの騒音や視覚的な刺激が多い場所を避けることも検討します。
- 可能であれば、音源(先生の声やスピーカー)に対して生徒が正面を向くように配慮します。
- 騒音への配慮: 完全に騒音をなくすことは難しいですが、授業に関係のない音(例えば、不要なBGMや機器の操作音など)を最小限にするよう意識します。
3. 教材・視覚情報の活用
聴覚情報だけでは難しい場合、視覚情報を補うことが非常に効果的です。
- 板書やスライドを積極的に使う: 口頭での説明と合わせて、重要なキーワード、定義、手順などを板書やスライドで示します。生徒は耳で聞きながら目で確認できます。
- プリントや配布資料に要点をまとめる: 授業の前に、その日の学習内容の概要や重要な語句、流れなどをまとめたプリントを配布しておくと、生徒は話を聞きながら参照できます。
- 視覚的な手助けになるツール:
- 図やイラスト: 抽象的な概念や複雑な手順は、図やイラストで示すことで理解を助けます。
- 色や下線: プリントや板書で、重要な部分に色をつけたり下線を引いたりして、視覚的に強調します。
- 構造化された板書/資料: 話の区切りに合わせて板書も改行したり、階層構造を明確にしたりすることで、情報の整理を助けます。
生徒自身の「聴く」力を育むサポート
先生からのサポートだけでなく、生徒自身が自分の聞き方の特徴に気づき、工夫できるようになることも大切です。
- 自分の聞き方の傾向に気づかせる: 「〜さん、今板書を見ながら聞くと分かりやすいみたいだね」「先生が近くで話すと聞き取りやすい?」のように、生徒がどのような状況で聞き取りやすいか、どのような工夫をしているかに一緒に気づいていきます。
- 分からない時の伝え方を教える: 「すみません、もう一度言ってもらえませんか」「〜ということですか?」など、聞き取れなかったり、内容が分からなかったりした時に、どのように質問すれば良いか具体的な言葉を教えます。
- 仲間に助けを求める方法: ペアワークやグループワークの際に、聞き取れなかった部分を友達に確認してみるなど、周囲に助けを求めることへの抵抗感を減らすように促します。
チームとしての支援
生徒の「聞き取りにくさ」への対応は、担任の先生一人で抱え込む必要はありません。
- 校内での情報共有: 生徒の聞き取りの傾向や、効果があったサポート方法などを、学年の先生や教科担任、特別支援教育コーディネーターなどと情報共有します。共通理解を持つことで、生徒はどの授業でも安心して学べます。
- 保護者との連携: ご家庭での様子を伺ったり、学校での困りごとや支援方法を伝えたりすることで、家庭と学校で連携したサポートが可能になります。保護者の方も、お子さんの困りごとを理解し、安心することにつながります。
まとめ
多様な学習スタイルを持つ生徒への支援は、決して特別なことではありません。一人ひとりの生徒が安心して学びに取り組めるよう、私たち教員ができる小さな工夫の積み重ねが大切です。
授業中の「聞き取りにくさ」に悩む生徒へのサポートも、ここでご紹介したように、少しの声かけの仕方を変えたり、視覚情報を意識的に加えたりするなど、普段の授業の中で試せるアイデアが多くあります。
すべてを一度に行う必要はありません。まずは一つ、今日の授業で試せることから始めてみましょう。そして、うまくいったこと、いかなかったことなどをぜひ同僚の先生方と共有してみてください。この「学びのカタチ共有広場」が、先生方のヒントとなり、また経験を共有する場となれば幸いです。