「あれ?伝わってないかも…」多様な生徒の戸惑いに気づき、安心させる声かけとフォロー方法
はじめに
日々の授業中、生徒たちが集中して取り組んでいる一方で、「あれ?今、指示が伝わったかな?」「何か困っている様子かな?」と感じる瞬間はありませんか。特に、多様な学習スタイルを持つ生徒さんの中には、集団での指示や活動に戸惑いを感じやすかったり、自分の困り感を言葉にするのが難しかったりする場合があります。
そうした生徒さんの小さなサインに気づき、適切な声かけやフォローをすることは、生徒さんの安心感や学びへの意欲に大きく繋がります。しかし、「どんなサインに注意すれば良いのか」「どう声かけたら良いのか」と迷うこともあるかもしれません。
この記事では、授業中に生徒さんが見せる戸惑いや混乱のサインに気づくポイントと、多様な学びの背景に寄り添った具体的な声かけ、そしてすぐに実践できるフォロー方法についてご紹介します。
生徒さんの「戸惑い」や「混乱」サインに気づく
生徒さんの戸惑いや混乱は、必ずしも言葉で表現されるわけではありません。授業中の様子から読み取れる様々なサインに気づくことが第一歩です。
チェックしたいサインの例
- 視線:
- 視線が定まらない、キョロキョロしている
- 配布物や板書を見つめているが、何も書き始めない
- 他の生徒の様子を過剰に気にしている
- 表情:
- 困惑したような表情
- 不安そうな、または緊張した表情
- 無表情、ぼんやりしている
- 行動:
- 課題に取り組む手が止まっている
- 不必要に物を触る、手遊びをする
- ソワソワして落ち着かない
- 周囲の小さな音や動きに過敏に反応する
- 教具や道具の使い方が分からない様子
- 質問したいようだが、言い出せない様子
- いつもはしないような、場にそぐわない言動が見られる
これらのサインは、単に集中力が切れているのではなく、指示が理解できなかった、次の行動が予測できない、感覚的に処理しきれない情報がある、といった多様な学びや感覚特性に関連する困り感から生じている可能性があります。
戸惑う生徒さんへの具体的な声かけとフォロー
生徒さんのサインに気づいたら、温かく、そして具体的に関わっていくことが大切です。
基本的な声かけのポイント
- 生徒さんの状況を決めつけない: 「分かってないでしょう?」ではなく、「何か困っていることはありますか?」など、生徒さんの状況を尋ねる形にする。
- 肯定的な声かけ: 「大丈夫だよ」「一緒に考えてみよう」など、安心感を与える言葉を選ぶ。
- 具体的に尋ねる: 「どこが難しい?」「この部分について一緒に見てみようか」など、困っている箇所を具体的に絞り込む手助けをする。
- 選択肢を示す: 「AとB、どちらから始める?」「先生に聞くか、友達に聞くか、どちらがいい?」など、自分で選べるように促す。
学びのスタイルに合わせたフォロー例
- 視覚的なサポートが必要な生徒さんの場合:
- 指示を口頭だけでなく、短い言葉と簡単な図や絵で書いたメモを見せる。
- ワークシートの該当箇所を指さす、線を引く。
- タスクのステップをリスト化して渡す。
- 完成形やお手本を見せる。
- 聴覚的なサポートが必要な生徒さんの場合:
- ゆっくり、はっきりと短い言葉で指示を繰り返す。
- 重要な指示は文字で提示する(ホワイトボード、カードなど)。
- 周りの音を気にしやすい場合は、一時的に静かなスペースへ誘導する。
- 段取りや予測が苦手な生徒さんの場合:
- 「まず〇〇をして、次に△△をします」のように、活動の流れを具体的に予告する。
- タスクを小さなステップに分け、「まずはここから始めようか」と最初のステップを明確にする。
- 残り時間を視覚的に示す(タイマー、残り時間の表示など)。
- 感覚過敏がある生徒さんの場合:
- 特定の音、光、匂い、肌触りなどが苦手でないか把握し、可能な範囲で環境調整を検討する。
- ざわざわした状況で混乱しやすい場合は、一時的に教室の隅や廊下など、落ち着ける場所で作業することを提案する。
すぐに実践できるフォローのアイデア
- ミニホワイトボードや付箋の活用: 個別指示やポイントをさっと書き込んで見せる。
- 「困ったときボックス」: よくある質問の答えや、活動のヒント、手順などを書いたカードを入れておき、生徒さんが自由に参照できるようにする。
- 「休憩チケット」: どうしても集中できないときや、感覚的に辛いときに使える休憩チケットを用意しておく(事前にルールを決めておく)。
- 教員が近くで一緒に始める: 特に始めの一歩で戸惑っている場合は、数分間、隣で一緒に課題に取り組み、軌道に乗ったら離れる。
- スモールトークで場を和ませる: 課題と直接関係ない短い会話で、生徒さんの緊張をほぐし、話しやすい雰囲気を作る。
大切なのは、「なぜできないの?」という視点ではなく、「どうしたらこの生徒さんが、安心して、自分のやり方で課題に取り組めるだろう?」という視点を持つことです。生徒さんの行動の背景にある困り感に思いを馳せ、寄り添う姿勢を示すことが、生徒さんの安心に繋がります。
日常的な予防策と環境づくり
戸惑いや混乱への対応だけでなく、そうした状況を未然に防ぐための日常的な工夫も有効です。
- 指示のユニバーサルデザイン化: 口頭、板書、プリント、ジェスチャーなど、複数の方法で指示を出すことを心がける。
- 活動の見通しを立てやすくする: 一日のスケジュールや、授業の活動内容を教室に提示する。
- 質問しやすい雰囲気づくり: 「いつでも質問してね」と伝えたり、個別での質問の時間を設けたりする。
- 生徒理解を深める: 生徒さんのこれまでの学び方、好きなこと、苦手なことなどを日頃から観察し、理解を深める。保護者の方から情報をいただくことも有効です。
まとめ
授業中に生徒さんが見せる戸惑いや混乱のサインは、多様な学びのスタイルの表れかもしれません。それらのサインに気づき、生徒さんの特性や困り感に寄り添った具体的な声かけやフォローを行うことで、生徒さんは安心して学ぶことができます。
ご紹介したサインへの気づき方や具体的なフォロー方法は、すぐにでも試せるものが多いかと思います。全てを一度に行う必要はありません。まずは一つ、二つ、気になるサインに意識を向けたり、試せそうな声かけやフォロー方法を取り入れてみたりすることから始めてみてはいかがでしょうか。
多様な生徒さんへの対応に悩むのは、決してあなた一人ではありません。私たち教員一人ひとりが、目の前の生徒さんの「学びのカタチ」を理解しようと努め、小さな一歩を踏み出すことが、すべての子どもたちが安心して学べる教室づくりに繋がります。この「学びのカタチ共有広場」が、皆さんの実践のヒントになったり、同じように悩む仲間と繋がるきっかけになったりすれば幸いです。