「結局、何が大事?」が分からない生徒へ:抽象的な概念や全体像を伝える具体的な工夫
多様な学習スタイルを持つ生徒の中には、抽象的な概念や物事の全体像を捉えることに難しさを感じている場合があります。「先生の話を聞いているのに、結局何が一番大事なのか分からない」「具体例は理解できても、一般的な定義になると分からなくなる」といった様子の生徒はいませんか。
このような生徒は、授業内容の核心部分や科目間の関連性を見失いやすく、学習全体でつまずきを感じてしまうことがあります。教員としても、「どこでつまずいているのか特定しにくい」「どのように説明すれば理解してもらえるか分からない」といった悩みに直面することも少なくないでしょう。
この記事では、抽象的な概念や全体像の理解に難しさを抱える生徒への具体的な支援アイデアをご紹介します。日々の授業で少し工夫することで、生徒たちの「分かった!」を増やしていくヒントになれば幸いです。
なぜ抽象的な概念の理解が難しいのか
抽象的な概念や全体像の理解が難しい背景には、いくつかの要因が考えられます。特定の認知特性、例えば一度に処理できる情報量(ワーキングメモリ)の限界、情報を順序立てて処理することの難しさ、視覚的・具体的な情報の方が理解しやすいといった特性などが影響している場合があります。
これらの特性は、決して「理解力がない」ということではなく、情報処理のスタイルが異なるだけです。具体的な困り事としては、以下のようなものが見られます。
- 新しい単語の定義を覚えるのが苦手
- 歴史の流れや社会の仕組みなど、目に見えない大きなつながりを理解しにくい
- 文章を読んで要点を掴むのが難しい
- 複雑な指示や複数のステップがある課題についていくのが大変
- 具体例から一般的な法則や概念を導き出すのが難しい
こうした生徒たちにとって、単に「説明を繰り返す」だけでは、かえって混乱を招くこともあります。生徒の情報処理スタイルに合わせたアプローチを試みることが大切です。
抽象的な概念や全体像を伝える具体的な工夫
抽象的な概念や全体像をより分かりやすく伝えるために、授業や教材作成で試せる具体的なアイデアをいくつかご紹介します。
1. 視覚的なサポートを最大限に活用する
目で見て理解できる情報は、抽象的な概念を結びつける手助けになります。
- 図やグラフ、イラストの使用:
- 概念間の関係性を図解する(例: マインドマップ、概念マップ)。
- 抽象的なプロセスをフローチャートで示す。
- 専門用語を分かりやすいイラストで補足する。
- 具体物やモデルの活用:
- 理科であれば実験器具や標本、模型を実際に手に取って見せる。
- 数学であれば具体物やブロックを使って計算や図形を操作する。
- 社会科であれば地図、地球儀、年表、模型などを活用する。
- 板書や配布資料の構造化:
- 重要なキーワードを太字や色分けする。
- 関連する情報を枠線で囲む。
- 説明のステップや項目を番号付けする。
- 全体像が掴めるよう、最初に簡単なアウトラインや目次を示す。
- テンプレートやフレームワークの提供:
- 文章構成が苦手な生徒には、「はじめに」「理由」「結論」といった簡単なテンプレートを提供する。
- 実験レポートや観察記録のフォーマットを事前に示す。
2. 言葉による説明を工夫する
口頭での説明も、少しの工夫で理解を深めることができます。
- 具体例と抽象概念の往復:
- まず生徒にとって身近な具体例をいくつか挙げ、そこから共通する要素を見つけて抽象概念を導き出す。
- 抽象概念を説明した後、複数の異なる具体例を示して理解を定着させる。
- 比喩やアナロジーの使用:
- 抽象的な概念を、生徒が知っている具体的なものや状況に例える(ただし、例えが難解すぎたり誤解を招いたりしないよう注意が必要です)。
- キーポイントの明確化:
- 「今日の授業で一番大切なポイントは3つです」「この定義で最も押さえてほしいのは〇〇という部分です」のように、重要な情報を最初に示したり、強調したりする。
- 段階的な説明:
- 複雑な概念は、いきなり全体を説明するのではなく、小さな要素に分解し、一つずつ丁寧に説明していく。
- 「要するに」「簡単に言うと」「一言で言うと」といった言葉で、説明の最後に簡潔にまとめる。
3. 活動を通して理解を促す
生徒自身がアウトプットする活動は、理解の定着に繋がります。
- 概念の図解化や要約:
- ペアやグループで、学んだ概念を図や言葉でまとめ、ホワイトボードや付箋を使って共有する。
- 授業内容を短い言葉で要約する「ワンミニッツペーパー」などを取り入れる。
- 概念を使った応用問題や演習:
- 学んだ概念を使って、新しい具体例を考えたり、簡単な問題を解いたりする活動を取り入れる。
- 説明する活動:
- 学んだ内容を友達や先生に説明する機会を設ける。人に教えることは、自分の理解度を確認し、曖昧な部分を明確にするのに役立ちます。
4. 理解度の確認とフィードバックを丁寧に行う
生徒がどこでつまずいているのか、どこまで理解できているのかを確認することが大切です。
- オープンクエスチョン:
- 「分かりましたか?」だけでなく、「今の説明で、一番大事だと思ったことは何ですか?」「〇〇について、あなたの言葉で説明してもらえますか?」のように、生徒が自分の言葉で答える質問をする。
- 簡単なチェック:
- 授業の節目ごとに、内容に関する簡単なクイズや選択式の問いかけを行い、クラス全体の理解度を確認する。
- 振り返りシート:
- 「今日の授業で新しく学んだこと」「まだよく分からないこと」などを記入してもらうシートを活用する。
教員の悩みへの対応・心構え
様々な工夫をしても、すぐに全ての生徒が同じように理解できるようになるわけではありません。焦らず、生徒一人ひとりの反応を観察しながら、根気強く様々なアプローチを試していくことが重要です。
もし、「どうすればいいか分からない」「自分の指導に行き詰まりを感じる」といった悩みがある場合は、一人で抱え込まずに他の先生に相談してみましょう。経験のある先生の事例を聞いたり、特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーといった専門家からアドバイスをもらったりすることも有効です。
また、生徒自身に「どうしたらもっと分かりやすいか」「どんな方法だと理解しやすいか」を一緒に考えてもらうことも、生徒の自己理解を促し、主体的な学びを支援することにつながります。
まとめ
抽象的な概念や全体像の理解に難しさを抱える生徒への支援は、特別なことではなく、多様な生徒がいる教室において、より分かりやすい授業を目指すための工夫の一つです。視覚的なサポート、言葉による説明の工夫、活動を通じた理解促進、そして丁寧な確認とフィードバックを組み合わせることで、多くの生徒が学びの「なるほど!」を体験できるようになります。
全ての生徒が安心して学びにアクセスできる教室を目指し、ぜひ今日ご紹介したアイデアの中から、ご自身のクラスで試せそうなものを取り入れてみてください。そして、この「学びのカタチ共有広場」で、皆さんの経験や工夫をぜひ共有していただけると嬉しいです。