生徒の「困った」を減らす!学びをサポートする文房具・ツールの選び方と活用アイデア
はじめに
日々の教育活動の中で、生徒一人ひとりの学びの様子を観察していると、「この子は、この教材だと少しやりにくそうだな」「他の子と比べて、この作業に時間がかかっているな」と感じることがあるかもしれません。学習の進度や理解度だけでなく、学習に取り組む上での「手段」や「方法」にも、生徒によって多様なスタイルや特性があります。
特に、書字が苦手、音や光に敏感、集中を持続させるのが難しい、といった特性を持つ生徒にとって、一般的な文房具や学習ツールが、知らず知らずのうちに学びのハードルになっている場合があります。
この記事では、多様な学習スタイルを持つ生徒たちの「困った」を少しでも減らし、主体的な学びをサポートするための、文房具やツールの選び方と具体的な活用アイデアをご紹介します。高価な特別支援教材だけでなく、身近にあるものや、少しの工夫で取り入れられるアイデアを中心にお伝えします。
なぜ、学習ツール・文房具の工夫が大切なのか
生徒の学習における困難は、必ずしも意欲や能力の問題だけではありません。使用しているツールが、その生徒の感覚特性や身体的な特性に合っていないために、本来の力を発揮できていない場合があるのです。
例えば、
- 鉛筆をうまく握れない、筆圧の調整が難しい生徒にとって、一般的な鉛筆やノートでの「書く」作業は大きな負担になります。
- 特定の書体や色の文字が見えにくい、線の多い図が見づらい生徒にとって、通常のプリントや教科書は情報処理に時間がかかります。
- 周囲の音が気になりやすい、光のちらつきが気になる生徒にとって、教室環境は集中を妨げる要因になりえます。
これらの困難に対して、生徒に合ったツールや文房具を提供することは、学習内容に集中するための基盤を整えることにつながります。生徒が「できた!」という成功体験を積み重ねる上でも、ツールのサポートは有効な手段の一つと言えるでしょう。
多様な学習スタイルに対応する文房具・ツール例と活用アイデア
ここでは、具体的な文房具やツールの種類と、学校現場でどのように活用できるかのアイデアをご紹介します。
1. 書字・筆記をサポートするツール
「書く」ことに困難を感じる生徒のために、様々な工夫がされた文房具があります。
- 握りやすい筆記具:
- アイデア: 太めの鉛筆、三角形や六角形のグリップ付き鉛筆、短い鉛筆など、生徒が楽に握れて安定するものを選ばせてみましょう。鉛筆にグリップを付けることも有効です。筆圧が強い生徒には、折れにくい芯の筆記具も良いかもしれません。
- 活用: 授業中に「これ、試してみる?」といくつか提示し、生徒自身に「これが一番持ちやすい」と感じるものを選んでもらうと、主体的に使用につながりやすいです。
- 書きやすいノート・紙:
- アイデア: マスの大きいノート、線が太く色のついた罫線のノート、無地の紙、方眼紙など、生徒が見やすく書きやすいと感じるものを用意します。書き間違えが多い場合は、修正テープではなく消せるペンを許可することも検討できます。
- 活用: 板書を写すのが難しい生徒には、あらかじめ板書内容をまとめたプリントや、ノートのテンプレートを提供することも支援になります。
- 定規・補助具:
- アイデア: 滑り止め付きの定規、線を引く位置を示すガイド付きの定規などがあります。
- 活用: 図やグラフを書く作業で、定規がずれてしまう、うまく線が引けないといった生徒の助けになります。
2. 見る・読むをサポートするツール
視覚的な情報処理に特性がある生徒のために、見やすさを調整できるツールがあります。
- カラーフィルター・リーディングトラッカー:
- アイデア: 特定の色(例: 黄色、水色)の透明な下敷きやシートを文字の上に重ねることで、文字が浮き上がって見えやすくなることがあります。リーディングトラッカーは、読む行だけに焦点を当て、他の行を隠すことで読み飛ばしを防ぎます。
- 活用: 長文読解や複雑な説明文を読む際に、「この色、どうかな?」「これを使ってみると読みやすいかな?」と提案し、生徒が試せる機会を作りましょう。
- 拡大ルーペ・読み上げ機能:
- アイデア: 教科書やプリントの文字を大きくして見やすくするルーペ。最近では、スマホやタブレットのカメラ機能を使って拡大したり、文字を読み上げるアプリなども進化しています。
- 活用: 小さな文字が苦手な生徒や、視力に課題がある生徒だけでなく、集中して特定の箇所を読みたい生徒にも有効です。ICT端末の音声読み上げ機能は、読字が苦手な生徒の理解を助けます。
- ブックスタンド:
- アイデア: 教科書や参考書を立てて固定できるスタンド。
- 活用: 本を作業しやすい角度に固定することで、姿勢が安定し、ノートを取るなどの作業と並行しやすくなります。机上のスペースを有効活用する助けにもなります。
3. 聞く・集中をサポートするツール
聴覚過敏や、周囲の音に気が散りやすい生徒のために、音環境を調整するツールがあります。
- イヤーマフ・耳栓:
- アイデア: 完全に音を遮断するものではなく、周囲のざわつきや特定の気になる音を軽減するイヤーマフや耳栓があります。
- 活用: 休み時間や、ざわつきやすい授業(グループワークなど)の際に、生徒が希望すれば使用できるようにします。教室の隅に、落ち着けるスペースを用意し、そこで使用することも考えられます。ただし、必要な指示や周囲の声が聞こえにくくなる可能性もあるため、生徒の特性に合わせて慎重に検討が必要です。
- ノイズキャンセリングイヤホン/ヘッドホン:
- アイデア: より能動的に周囲の騒音を打ち消す機能を持つものです。高価なものもありますが、最近は比較的安価な製品も増えています。
- 活用: 個別学習の時間や、図書館などの静かな環境での学習に適しています。ただし、学校での使用についてはルールや安全面の考慮が必要です。
- パーテーション・つい立て:
- アイデア: 机の上に置ける小さなパーテーションや、席を区切るつい立てなど。
- 活用: 視覚的な刺激を減らし、自分の手元の作業に集中する環境を作るのに役立ちます。他の生徒への配慮も考慮しつつ、個別の席配置や机の向きを工夫することも効果的です。
4. 整理・計画をサポートするツール
段取りを組むことや、持ち物・課題の管理が苦手な生徒のために、視覚的に分かりやすいツールがあります。
- 視覚的なチェックリスト・ToDoリスト:
- アイデア: その日のタスクや持ち物を書き出し、終わったらチェックを入れるシンプルなリスト。写真やイラストを加えても分かりやすいです。
- 活用: 生徒の机に貼る、連絡袋に入れるなど、生徒が見やすい場所に置きます。朝の準備や帰りの支度、授業中のタスク管理など、様々な場面で活用できます。
- タイマー:
- アイデア: 残り時間が視覚的に減っていくキッチンタイマーのようなものや、スマホ・タブレットのタイマー機能。
- 活用: 「この課題に15分取り組もう」「あと5分で片付けの時間だよ」など、時間管理の目安として使用します。時間の見通しを持つことで、焦りや不安を軽減できる場合があります。
- 整理しやすいファイル・ケース:
- アイデア: 課題の種類ごとに色分けしたファイル、プリントを挟むだけで簡単に整理できるクリアファイル、筆記具などをまとめておけるペンケース。
- 活用: 持ち物の定位置を決めたり、課題提出の際に「このファイルに入れてね」と視覚的に指示したりすることで、混乱を防ぎ、整理整頓の習慣化をサポートします。
生徒へのツールの提案と導入のポイント
新しいツールや文房具を生徒に提案する際には、以下の点を意識することが大切です。
- 生徒の困り感を共有する: まず、「〜が少しやりにくいかな?」「これで困っていることはある?」など、生徒自身の声に耳を傾けます。教員が一方的に「これを使った方がいい」と押し付けるのではなく、生徒が自分の困り感を自覚し、その解決のためにツールを「使ってみようかな」と思えるように促します。
- 複数の選択肢を提示する: 可能であれば、いくつかの種類のツールを提示し、生徒自身に実際に触れて試してもらい、最も使いやすいと感じるものを選ばせます。好みや感覚は生徒によって異なるため、「これなら使えそう」という生徒の感覚を大切にすることが重要です。
- 試す機会を設ける: いきなり本格的に使用するのではなく、「まずは今日の授業中だけ使ってみようか」「この課題だけ試してみよう」など、短い時間や特定の場面で試用する機会を設けます。
- 使用感をフィードバックしてもらう: 使ってみた感想を生徒に聞きます。「どうだった?」「使いやすかった?」「何か困ったことはなかった?」など、率直な意見を聞き、必要であれば別のツールを試したり、使い方を調整したりします。
- 周囲の理解と配慮: 特定のツールを使用する生徒がいる場合、他の生徒に簡単な説明(例: 「このツールを使うと、もっと集中して学習できるようになるんだよ」など)を行い、理解と協力を促すことも検討します。ただし、生徒のプライバシーに関わることなので、生徒や保護者の同意を得て慎重に行う必要があります。
まとめ
多様な学習スタイルを持つ生徒への支援は、特別なことばかりではありません。日々の授業で使用する文房具や学習ツールを、生徒一人ひとりの特性に合わせて少し工夫するだけでも、学びやすさは大きく変わる可能性があります。
今回ご紹介したアイデアはほんの一例です。生徒の様子を丁寧に観察し、「この子にとって、何が学びのハードルになっているのだろう?」と考えを巡らせることから始まります。そして、「これなら試せるかも」というアイデアがあれば、ぜひ生徒と一緒に試してみてください。
すぐに効果が出なくても、試行錯誤のプロセスそのものが、生徒が自分の「学びのカタチ」に気づき、自分に合った方法を見つけていく大切なステップとなります。他の先生方とも情報交換をしながら、生徒たちの「できた!」を増やすサポートを一緒に考えていきましょう。