「質問ある人?」だけでは難しい?多様な生徒の「分からない」を引き出す具体的な声かけと工夫
なぜあの生徒は質問しないのだろう?疑問を抱える先生方へ
日々の授業の中で、「何か質問はありますか?」と投げかけても、教室に静寂が訪れる。特に多様な学習スタイルを持つ生徒の中には、理解に追いついていないにも関わらず、なかなか質問することができないというケースが見られます。教員としては、「どこでつまずいているのか」「何が分からないのか」を把握したいのに、それができず、もどかしい思いをされている先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
質問は、学びを深め、疑問を解消するための重要なステップです。しかし、様々な理由から、生徒にとっては高いハードルとなり得ます。この記事では、質問が苦手な生徒たちが抱える背景を探りながら、彼らが安心して「分からない」を伝えられるようになるための具体的な声かけや、教室でできる工夫についてご紹介します。
生徒が質問をためらう、多様な理由
生徒が質問をためらう背景には、実に様々な理由があります。特定の学習スタイルや特性を持つ生徒だけでなく、多くの生徒に共通する心理的なハードルや、スキル不足が関係していることもあります。
- 「こんな簡単なことを聞いてもいいのかな?」という不安: 周囲の生徒や先生に、自分の理解度の低さを知られることへの恥ずかしさや不安を感じています。
- 自分が「何が分からないのか」が、そもそも分かっていない: 学習内容が整理されておらず、漠然とした「分からない」しか感じていないため、具体的な質問を組み立てることができません。
- 質問の仕方が分からない: 疑問点をどのように言葉にすれば伝わるのか、その表現方法を知りません。
- 先生やクラスメイトに迷惑をかけたくない: 質問することで授業の流れを止めてしまうのではないか、先生の手を煩わせてしまうのではないか、といった配慮(あるいは過度な心配)をしています。
- 過去に質問して、嫌な経験をした: 質問に対して否定的な反応を受けたり、十分に聞いてもらえなかったりといった経験があると、次に質問する意欲が失われてしまいます。
- 集団の前で話すのが苦手: 質問に限らず、人前で発言すること自体に強い抵抗があります。
これらの理由が単独で、あるいは複数組み合わさることで、生徒は質問することをためらってしまいます。多様な学習スタイルを持つ生徒の場合、情報の受け取り方や処理の仕方が独特であるために、「分からない」という状態になりやすかったり、その「分からない」を表現することがさらに難しかったりする場合があります。
質問が苦手な生徒のサインに気づく
生徒が質問をしないからといって、「分かっているのだろう」と安易に判断するのは危険です。質問が苦手な生徒は、しばしば別の形でサインを出しています。日々の授業観察で、次のような点に注意してみてください。
- 目が泳いでいる、落ち着きがない: 学習内容に集中できていない、不安を感じている可能性があります。
- ぼんやりしている、手が進まない: 課題や演習に取り組めず、立ち止まっているサインかもしれません。
- 他の生徒の様子を気にしている: 周囲のペースについていけていない、理解できていないことを悟られないようにしている可能性があります。
- 頻繁に消しゴムを使う、書き直す: 理解が曖昧なまま進めようとして、うまくいっていない様子がうかがえます。
- 特定の箇所で明らかに手が止まる、あるいは雑になる: その部分でつまずいている明確なサインです。
- 振り返りシートや簡単な小テストでの記述が少ない、あるいは空欄が多い: 理解が進んでいない可能性を示唆しています。
これらのサインを見つけたら、すぐに質問を促すのではなく、「何か困っていることはないかな?」「ここまでで分からなかったところは?」など、個別に声をかけてみる糸口にすることができます。
「分からない」を引き出す具体的な声かけと工夫
生徒が「分からない」を伝えられるようになるためには、教員からの意図的な働きかけと、質問しやすい環境づくりが必要です。以下に具体的なアイデアをいくつかご紹介します。
1. 全体への声かけの工夫
「何か質問はありますか?」という問いかけだけでは不十分です。次のように、質問のハードルを下げる言葉を添えてみましょう。
- 「今やっているこの部分で、『あれ?』と思ったところはありませんか?」(具体的な箇所を指定する)
- 「さっき説明した中で、『もう少し詳しく知りたいな』というところはありますか?」(疑問の角度を指定する)
- 「教科書のここの図について、『これってどういう意味かな?』と感じた人はいませんか?」(特定の情報源に紐づける)
- 「多分みんなも同じことを疑問に思っていると思うんだけど、質問してくれたら嬉しいな」(普遍的な疑問であることを示唆し、心理的なハードルを下げる)
- 「〇〇さんが今、こんな疑問を持ってくれたんだけど、他にはあるかな?」(特定の生徒の質問を全体に共有し、他の生徒の質問を引き出す)
- 「どんな小さなことでも大丈夫です。気軽に声をかけてくださいね」(質問のハードルを下げる)
2. 個別での声かけとサポート
サインに気づいた生徒や、日頃から質問が少ない生徒には、個別に声をかけてみるのが効果的です。
- 授業中: 生徒の席を回り、「ここまでどう?」「今の説明、大丈夫そうかな?」と短い言葉で声をかけ、表情や反応を見ながら、必要であれば補足説明をします。全体に聞くのが苦手な生徒にとっては、個人的なやり取りの方が安心できます。
- 休み時間・放課後: 「さっきの授業で、もし分からなかったところがあれば、この時間でも大丈夫だから聞きに来てね」と声をかけておく。後で落ち着いて質問できる時間があることを示すことが大切です。
- 宿題や課題の提出時: 提出されたものを見て、理解が不十分と思われる箇所があれば、返却時に「ここの部分について、もう少し確認したいんだけど、後で少し時間ある?」と個別に対応する機会を設けます。
3. 質問しやすい「仕組み」を作る
授業中以外でも、生徒が気軽に質問できるような「仕組み」や「ツール」を導入することも有効です。
- 「質問箱」の設置: 無記名で質問を書いた紙を入れられる箱を教室に置く。回収した質問は、次回の授業の冒頭で全体に回答したり、個別に返却したりします。匿名性が、質問のハードルを大きく下げてくれます。
- 「今日の振り返り&質問シート」: 授業の終わりに、「今日の学びで分かったこと」「今日の学びで疑問に思ったこと」などを記入する簡単なシートを用意する。書くことで自分の理解度や疑問点が整理され、質問もしやすくなります。教員はこれを読むことで、生徒の理解状況を把握し、個別のサポートにつなげられます。
- デジタルツールの活用:
- オンラインフォーム: Googleフォームなどで簡単な質問受付フォームを作成し、QRコードなどで共有する。匿名回答を許可すれば、生徒は場所や時間を問わず、気軽に質問を送信できます。
- 共同編集可能なドキュメント/ホワイトボード: 授業中に、共有ドキュメントやオンラインホワイトボード(例: Jamboard, Miroなど)に「質問コーナー」を作り、そこに生徒が自由に質問を書き込めるようにする。他の生徒の質問を見ることも刺激になり、回答を共有する場としても活用できます。
- 授業支援ツールのQ&A機能: 学校で導入している授業支援ツール(例: Classroom, Teamsなど)にQ&Aやチャット機能があれば、それを活用する。
4. ポジティブな質問文化を醸成する
どのような質問であっても、生徒が勇気を出して発した疑問に対しては、常に肯定的、建設的な態度で応じることが不可欠です。「そんなことも分からないの?」といった否定的な言葉や、嘲笑するような態度は絶対に避けなければなりません。
- 「良い質問だね!」と具体的に褒める: 質問の内容が授業にとって有益であったり、深い思考につながるものであったりした場合は、具体的に「〇〇という視点は大事だね」「そこに気づくのは素晴らしい」などと褒めることで、質問した生徒だけでなく、聞いている他の生徒にも質問することの価値を伝えることができます。
- 質問の意図を確認する: 生徒の質問の言葉足らずだったり、的外れに見えたりする場合でも、「つまり、〇〇ということかな?」と先生が意図を汲み取り、質問を整理してあげることで、生徒は「聞いてもらえた」と感じ、次に繋がります。
- 質問から学びを広げる: 質問をきっかけに、関連する発展的な内容に触れたり、他の生徒に意見を求めたりすることで、質問が授業全体の活性化につながることを示します。
まとめ:安心できる関係性と環境が鍵
生徒が安心して「分からない」を伝えられるようになるためには、教員との信頼関係と、心理的な安全性が確保された教室環境が何よりも重要です。
特別な支援が必要な生徒も含め、多様な学習スタイルを持つ生徒一人ひとりが、自分のペースで学びを進め、つまずいた時にSOSを出せるようになるには、教員の根気強い観察と、多様なアプローチを試す姿勢が求められます。
この記事でご紹介した具体的な声かけや工夫が、先生方の「あの生徒へのアプローチ、どうしよう…」といった悩みに対する、少しでも実践的なヒントになれば幸いです。ぜひ、できることから一つずつ試してみてください。そして、他の先生方の事例も参考にしながら、それぞれの生徒に合った最適な方法を見つけていきましょう。