一人ひとりの「得意」を発見!多様な学習スタイルの生徒の強みを引き出す具体的なアプローチ
なぜ生徒の「得意」や「強み」に注目するのか?
多様な学習スタイルを持つ生徒への支援は、その生徒の「苦手」な部分を補うことに焦点が当たりがちです。もちろん苦手への手当ても大切ですが、同時に生徒が持っている「得意」なことや「強み」に注目し、それを学習に活かす視点を持つことは非常に重要です。
生徒は誰でも、何かしら得意なことや好きなこと、興味を持っていることなど、ポジティブな側面を持っています。これらの強みを学習に結びつけることで、生徒は以下のようなメリットを得られます。
- 自己肯定感の向上: 自分が認められている、価値があると感じられる。
- 学習へのモチベーション向上: 好きなことや得意なことを通して学ぶ楽しさを知る。
- 「苦手」への挑戦意欲: 得意なことで力を発揮できる経験が、苦手なことへの粘り強さにつながる。
- 多様な学習スタイルの受容: 自分の得意な方法で学ぶことを通して、自分自身の「学びのカタチ」を受け入れられる。
特に、学びに困難を感じている生徒や、特定の学習スタイルに偏りがある生徒ほど、「自分はできない」と感じてしまうことがあります。そうした生徒にとって、自身の強みが発見され、それが学習に活かされる経験は、大きな自信と前向きな気持ちにつながります。
ここでは、生徒一人ひとりの「得意」や「強み」を見つけ、それを日々の学習支援に具体的に結びつけるためのアプローチをご紹介します。
生徒の「得意」や「強み」を見つけるための観察ポイント
生徒の得意なことや強みは、必ずしも学校の成績や授業中の挙手回数に表れるとは限りません。様々な場面や視点から生徒を観察することで、意外な一面を発見できることがあります。
1. 授業中の多様な側面に注目する
- 教科内容以外への関心: 授業中に配布資料のイラストを熱心に見ている、特定の歴史上の人物に詳しい、科学的な事象の背景に関心を持つなど。
- 活動への取り組み方: グループワークで自然と調整役になる、発表資料の作成が得意、実験の手順を覚えるのが速い、黒板の情報を正確に写せるなど。
- 特定の教材への反応: 図やグラフ、写真、動画、音声、実物など、どのような教材に強く反応するか。
2. 授業以外の場面での様子を観察する
- 休み時間: 友達との関わり方(聞き役、話し役、リーダーシップ)、特定の遊びへの没頭(絵を描く、物を作る、体を動かす)、集中して取り組んでいること。
- 部活動: 運動能力、協調性、継続力、リーダーシップ、特定の技術への習熟度。
- 清掃活動や係活動: 黙々と丁寧に作業する、周りに声をかけて協力する、工夫して効率化するなど。
- 行事への取り組み: 実行委員としての役割、特定の準備(装飾、プログラム作成)への熱意やスキル。
3. 生徒本人や保護者との対話から情報を得る
- 生徒との面談や日常会話: どんなことに関心があるか、休みの日は何をしているか、好きなこと、将来の夢などを聞く。「学校ではあまり話さないけれど、家ではものすごく集中して〇〇に取り組んでいる」といった情報が得られることもあります。
- 保護者面談: 家庭での様子、幼少期からの興味や得意なこと、学校では見せない一面について話を伺う。
4. 既存の情報を活用する
- 小学校からの引継ぎ資料: 過去の担任の先生からの情報の中に、ヒントが隠されていることがあります。
- 生徒が作成した作品: 美術や技術・家庭科の作品、自由研究、授業ノートの工夫など。
- 各種アンケート: 趣味や特技、好きな教科、将来の希望などについて尋ねるアンケートの結果を見直す。
これらの観察や情報収集を通して、「この生徒は視覚的な情報整理が得意かもしれない」「人前で話すのは苦手だが、文章で表現するのは得意そうだ」「細かい作業に集中して取り組むのが好きなんだな」といった生徒の強みが見えてきます。
見つけた「得意」を学習に活かす具体的なアイデア
生徒の強みが見つかったら、それを日々の学習活動にどう活かすかを具体的に考えてみましょう。以下にいくつかのアイデアを挙げます。
1. アウトプットの方法を多様にする
- 発表: 口頭発表だけでなく、模造紙、ポスター、スライド、動画、劇など、表現方法を選択できるようにする。絵を描くのが得意な生徒にはイラストで説明させる、ICTが得意な生徒にはプレゼンツールや動画作成ツールを使わせるなど。
- レポートやまとめ: 手書きだけでなく、PCでの入力、音声入力、図やイラスト中心の表現、写真やインターネットからの画像活用などを認める。
- 課題の選択: 提示された複数の課題の中から、自分の興味や得意な方法で取り組めるものを選ばせる。
2. 授業内での役割分担を工夫する
- グループ活動:
- 絵を描くのが得意な生徒に発表用の模造紙作成やイラスト担当を依頼する。
- PC操作が得意な生徒に資料作成や情報収集のリーダーを任せる。
- 聞き役が得意な生徒に、みんなの意見をまとめる書記を依頼する。
- 人前で話すのは苦手だが、友達とのコミュニケーションが得意な生徒には、グループ内の意見交換を円滑にする役割を促す。
- 係活動や日直: 持ち前の責任感や工夫する力を活かせるような役割を与える。
3. 教材や学習環境を調整する
- 視覚優位な生徒: 図やグラフが多い教材、カラーユニバーサルデザインに配慮した資料、動画教材などを積極的に活用する機会を増やす。自分で図や絵を描いて理解を深めることを勧める。
- 聴覚優位な生徒: 音声教材、説明の多さ、ディスカッションなどを重視する。自分で音読したり、内容を口頭でまとめたりする時間を設ける。
- 触覚・運動感覚優位な生徒: 実際に物に触れる活動、体を動かす活動、模型作り、ジェスチャーを取り入れた発表などを取り入れる。立ちながら学ぶ、歩きながら考えることを許可するなど、環境を柔軟にする。
4. 得意を活かして他の生徒を支援する機会を作る
- 特定の教科や単元が得意な生徒に、他の生徒に教える機会(小グループでの説明、質問対応など)を設ける。教えることで自身の理解も深まります。
- ICTツールの操作が得意な生徒に、他の生徒や先生に使い方を教える「ミニ先生」になってもらう。
強みを活かす支援のポイントと注意点
生徒の強みを活かした支援を進める上で、いくつか意識しておきたい点があります。
- 生徒に伝える: 先生が生徒の強みに気づいていること、それを評価していることを具体的に伝えましょう。「〇〇さんは絵を描くのが得意だね。今日の発表資料のイラスト、とても分かりやすかったよ。おかげでみんなよく理解できたと思うよ」「あなたは友達の話をよく聞くのが得意だから、グループの意見をまとめる係をお願いできるかな?」など、具体的な行動や結果と結びつけて褒めることが大切です。
- 「得意」に偏りすぎない: 強みを活かすことは重要ですが、苦手なことや必要な基礎学力から完全に逃避させるわけではありません。強みをフックにしつつ、苦手なことにも粘り強く取り組めるように励まし、必要なサポートは継続して行います。
- スモールステップで試す: 最初から大きな役割を与えるのではなく、まずは小さなタスクや一部の活動で強みを活かす機会を設けてみましょう。うまくいった経験を積み重ねることが重要です。
- 他の教員と共有する: クラス担任だけでなく、教科担当、特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラーなど、他の教員と生徒の強みに関する情報を共有することで、学校全体で生徒を多角的に理解し、一貫した支援につなげることができます。
まとめ:生徒の「できた!」を引き出すために
多様な学習スタイルを持つ生徒への支援は、試行錯誤の連続かもしれません。特に経験が浅いと、「どうすればいいのだろう」と悩むことも多いでしょう。しかし、生徒の「苦手」だけでなく、「得意」なことや「強み」に目を向け、そこに光を当てることから始めてみませんか。
生徒一人ひとりの素晴らしい側面を見つけ、それを学ぶ力に変えていくこと。それは、生徒の可能性を広げるだけでなく、先生自身のやりがいにもつながるはずです。
今日からでも、生徒のどんな小さな「得意」が見つけられるか、意識して観察してみてください。そして、見つけた強みを、ほんの少しで良いので日々の授業や学級活動の中で活かせる機会を作ってみてください。その小さな一歩が、生徒の大きな「できた!」につながるはずです。
この広場では、皆さんの実践事例や悩み、工夫なども共有できます。ぜひ、周りの先生方とも情報交換をしながら、一人ひとりの生徒にとって最善の学びのカタチを一緒に探していきましょう。