通常のテストが苦手な生徒へのサポート:テスト中の具体的な配慮と代替評価のアイデア
テスト・評価時における多様な生徒への配慮の重要性
日々の授業で生徒一人ひとりの学習スタイルに合わせた支援を試みていても、定期テストや単元テストといった評価の場面で、「この生徒は筆記テストの形式だと、どうしても実力が発揮しにくいな」と感じることはありませんか。書くことに時間がかかったり、問題文の意図を捉えにくかったり、集中が持続しなかったりと、生徒によって困難さはさまざまです。
私たちは、生徒が何をどのくらい理解し、できるようになったのかを適切に把握し、評価する必要があります。しかし、画一的なテスト形式だけでは、多様な学習スタイルを持つ生徒たちの真の学びや努力を見落としてしまう可能性があります。評価の機会こそ、生徒が安心して学びの成果を示せるよう、多様な配慮を検討することが大切です。
ここでは、通常の筆記テストが苦手な生徒への具体的なテスト中の配慮や、多様な学びを捉える代替評価のアイデアについて考えていきます。
通常の筆記テストで生徒が直面しがちな困難
多様な学習スタイルを持つ生徒が、筆記テストで困難を感じる背景には様々な要因があります。
- 書字に関する困難: 文字を書くのに時間がかかる、文字の形が崩れる、マス目に収まらない、漢字を覚えにくいなど。
- 時間管理に関する困難: 試験時間内に問題を解き終えられない、一つの問題に時間をかけすぎてしまう、時間配分が分からないなど。
- 読字・理解に関する困難: 問題文を正確に読むのが難しい、文章の指示を理解しにくい、長い文章や複雑な表現でつまずくなど。
- 集中・注意に関する困難: 周囲の音や視覚情報が気になって集中できない、最後まで集中を持続させるのが難しい、ケアレスミスが多いなど。
- 感覚に関する困難: 試験会場の照明や温度、座席の硬さなどが気になってしまうなど。
これらの困難は、生徒の努力不足ではなく、学習スタイルや特性に起因することが多いです。これらの困難さを理解した上で、適切な配慮を検討することがスタートラインとなります。
テスト中に試せる具体的な配慮例
生徒が安心してテストに取り組めるよう、テスト中にできる配慮にはいくつかの方法があります。生徒の状況や困り感に応じて、可能な範囲で検討してみましょう。
1. 環境に関する配慮
- 座席: 他の生徒との距離を適切に保つ、窓際や出入り口付近など気が散りやすい場所を避ける、教卓付近など落ち着ける席にする。
- 照明・音: 可能であれば、照明の明るさを調整したり、外部の騒音が入りにくい場所を選んだりする。
- 物理的なスペース: 机の上に必要以上のものを置かないように促したり、必要な道具(定規など)を事前に準備させたりする。
2. 問題用紙・解答用紙に関する配慮
- 拡大: 文字が小さくて読みにくい生徒には、問題用紙や解答用紙を拡大コピーする。
- 行間: 行間を広げることで、読みやすさや書き込みやすさを向上させる。
- 色: 白黒だけでなく、カラー印刷を試みる(グラフや図など)。色の識別が困難な場合は、コントラストを調整する。
- フォーマット: 問題番号を大きくする、設問ごとに区切り線を引くなど、視覚的に整理されたフォーマットにする。設問と解答欄の位置を明確にする。
- 解答方法の選択肢: 記述式だけでなく、選択式や穴埋め式の問題も取り入れる。
3. 時間配分に関する配慮
- 試験時間の延長: 必要に応じて、試験時間を延長することを検討する。ただし、他の生徒への影響や公平性も考慮が必要です。
- タイマーの使用: 休憩時間や終了時間を視覚的に分かりやすく提示するため、タイマーを活用する。個人用の小さなタイマーの使用を許可する。
- 途中休憩: 長時間集中するのが難しい生徒に対し、短い休憩時間を設けることを検討する。
4. 声かけ・確認に関する配慮
- 指示の明確化: テスト開始前に、指示やルールをより丁寧に、視覚情報も交えて伝える。
- 個別の声かけ: テスト中に困っている様子が見られる生徒に、静かに「何か困っていることはありますか?」などと声かけを行う。
- 読み上げ: 必要に応じて、問題文や設問をゆっくりと読み上げる(他の生徒への配慮も必要)。
5. 使用可能なツールの許可
- 定規: 罫線を引く、図を正確に描くために定規の使用を許可する。
- 拡大鏡: 文字を拡大して読む必要がある場合に許可する。
- タイマー: 時間管理のために、個人用のタイマーの使用を許可する。
- 読み上げアプリ/機器: 問題文の読み上げが必要な場合に、個別に対応可能な方法を検討する。
これらの配慮は、すべての生徒に一律に行うのではなく、生徒一人ひとりの特性や困り感を把握した上で行うことが重要です。また、配慮の内容については、事前に生徒本人や保護者とよく相談し、合意形成を図ることが望ましいでしょう。
多様な学びを評価する代替評価のアイデア
筆記テストだけが評価の方法ではありません。生徒が授業や活動を通して身につけた知識や技能、思考力などを多様な方法で捉えることも大切です。
- レポート・作文: 特定のテーマについて調べたことや考えたことをまとめる形式。書字が苦手な場合は、タイピングや音声入力での提出も検討する。
- プレゼンテーション・発表: 内容を口頭で説明したり、スライドや模造紙などの視覚資料を使って発表したりする形式。
- ポートフォリオ: 学習の過程で作成した様々な成果物(ノート、ワークシート、作品、レポート、自己評価など)を収集・整理し、学びの過程や成長を評価する。
- 実技・作品: 美術、技術・家庭科、体育、音楽などの教科だけでなく、理科の実験操作、社会科の地図作成など、具体的な活動を通して評価する。
- 観察・面談: 授業中の発言、グループ活動での関わり、質問への応答、個別面談など、教師の直接的な観察や対話を通して生徒の理解度や関心、態度を評価する。
- 形成的評価の重視: 単元末のテストだけでなく、授業中の小テスト、ワークシートの提出、発言、質問への応答など、日々の学習活動における生徒の様子をこまめに評価に取り入れることで、生徒の継続的な努力や理解の定着度を捉えることができます。
これらの代替評価は、筆記テストが苦手な生徒にとって、自身の得意な方法で学びの成果を示す機会となります。また、教員にとっても、生徒の多様な能力や成長を多角的に把握するための有効な手段となります。
配慮や代替評価を導入する際のポイント
実際にテスト時の配慮や代替評価を導入する際には、いくつかのポイントがあります。
- 生徒との対話: 生徒自身がどのような形式で学びの成果を示しやすいか、どのような配慮があれば安心して取り組めるかなどを、オープンに話し合う機会を持つことが重要です。生徒自身の自己理解にもつながります。
- 保護者との連携: 保護者と生徒の学校での様子や家庭での学習の様子について情報共有を行い、協力して支援体制を構築することが大切です。テスト時の配慮や代替評価についても、事前に説明し理解を得ましょう。
- 校内での情報共有: クラス担任だけでなく、教科担当や特別支援教育コーディネーターなど、複数の教員で生徒の情報を共有し、一貫性のある支援を行うことが望ましいです。
- 評価基準の明確化: どのような方法で評価を行うにしても、評価の観点や基準を生徒に分かりやすく伝えることが重要です。何ができれば「できた」と判断されるのかが明確であることで、生徒は安心して取り組むことができます。
- 段階的な導入: 一度に全ての生徒に多様な評価方法を導入するのが難しい場合は、まずは特定の生徒や特定の評価機会で試行的に導入してみるなど、段階的に進めることも可能です。
まとめ
テストや評価は、生徒にとって学びの成果を示す重要な機会であると同時に、自身の成長を実感する機会でもあります。多様な学習スタイルを持つ生徒たちが、それぞれの「できた!」を自信を持って示せるよう、従来の筆記テストにとらわれず、様々な角度から生徒の学びを捉え、適切な配慮や代替評価を柔軟に検討していくことが、私たち教員に求められています。
今回ご紹介した内容は、あくまで一例です。目の前の生徒の状況に合わせて、どのような配慮や評価方法が最も適しているかを考え、試行錯誤を重ねていくことが大切です。この情報が、多様な生徒へのテスト・評価時の支援を考える上での一助となれば幸いです。